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朝井リョウ「桐島、部活やめるってよ」

 

桐島、部活やめるってよ (集英社文庫)

桐島、部活やめるってよ (集英社文庫)

 

 これも男性作家で、女子高生の一人称があるけど、特に違和感もなく読めた。

この違いは何だろうと思って少し考えて、多分この本では私の好きな「少女の残酷性」が描かれてること、前に読んでしっくりこなかった本はそれがなかったことだなと結論づけてみた。

 

卯月の雪のレター・レターに出てくる少女たちにはその残酷さがなくて、「姉」「許す立場の者」という描かれ方をしていたような気がする。

 

ちょっと話はずれるけど、卯月がどうこうというのではなく、男性ミステリ作家が描く相手役の女性が往々にして「母性」のかたまりであることについて、常々不思議に思っている。

という話を友人としていて、「何か心に傷持ってるんでは?」と言われて、成程となった。包み込んでくれる母性が必要なんだな、傷ついた(一部の)男子には。

書き手のことを指したのか、ミステリの登場人物のことを指したのかはわからないけど、でも一部のミステリ書きには探偵役(もしくは語り手)=自分というようなところがあるので、どちらでも同じことか。*1

 

閑話休題

 

言ってることは正しいんだけどな、外見が気持ち悪いからなんだか正しいと認めたくない。

 たとえば沢島亜矢のこういうところ、女の子が女の子であるというだけで「気持ち悪い」を他人を軽やかに断罪できる、でも悪いことだと決めつけるところまでは自分に自信のないところが、とても好きです。

 

そして自分に自信のあるタイプの女の子は、作中で「可哀想だ」と哀れまれている中のバランスがまたとてもよくて、どの高校生もとてもわたしにとってはリアルで、とても読んでいてしんどかった。

 

ときおり、心理面でちょっとロマンティックすぎる描写にひるんだりもしたけど、女の子はそんなんじゃない、と言えるような人生を送っていないので、「もしかしたらわたし以外の女の子はそうやって生きてきたのでは…」ということに対するおびえです。

高校時代、普通科の子に「休みの日は何してるの?」と聞いたとき、「雑誌を読んだり、音楽を聴いたり、好きな男の子のことを考えてる」って言われて体育科のわたしが震え上がったのを思い出した。わたしは何をやってたかですか? 筋トレですよ!

 

わかっていたことだけど、部活がテーマなあたりで、高校時代の部活動というものに怨念を持っているわたしにはしんどすぎて、特に小泉風助の章は苦しくて、いやあほんとにしんどかった。小中高と部活で部長をやり続けた身には嗚咽を漏らすことしかできなかった。

桐島は小泉みたいに見ててくれる人がいてよかったね!

わたしにはいなかったよ!

もしかしたら気づかないだけでいたのかな。

だったら多少は救われるがたぶんそんなことはない。

 

桐島は帰ってこないだろうなと思う。わたしなら帰らない。

帰らない以前に、スポーツ推薦で入った高校で「部活を辞めるということは学校を辞めるということだからな」と最初に釘を差されていたので、辞めないか、学校ごと辞めるかの二択しかなかったのだが。

いやわたしの話はともかく、一生懸命部活やってきたなら、頑張ってた分だけ「あ、別に頑張らなくてもよかったんだ」と気づいてしまう気がする。

部のために、みんなのためにやってきたけど理解されず、ひょっとしたら俺がいない方がうまくまわるんじゃねーの別に全国行くような部でもないし、と一瞬でも思ってしまったら戻れないのではないだろうか。

あとになって、孝介が「やっぱ桐島じゃねーと部長務まんねーよ」とか、風助が「気づいてたのに助けられなくてごめん」とか言ったが最後、桐島は何となく困ったように笑って、「いや、そういうんじゃないから…」って言って、もう二度と体育館には戻らない気がする。

桐島のこと知らんからわからんけど。

続編あって戻ってきてたり、作者が戻ってきますとか言ってたらアホみたいなブログだな。

みんな心の中に桐島を持っている。

 

進学校の運動部ってどんな感じなんだろう。

多分、わたしが通っていた高校で部長がやめるという状態とはまったく深刻さが違うだろうなと思う。

桐島不在の方が深刻だという話です。強い人が山ほどいて、いつでも俺が俺がとチームの王様になりたがる場所で、王様一人が欠けたところで別に何も変わらない。と思う。

 

いや、桐島が部活やめても深刻というほど深刻ではないんだろうけど、少しずつ波紋が広がって、少しずつ誰かに関わっている学校という世界の描き方がおもしろかった。しんどいけど。卒業して百年くらい経ってる気がするのにまだしんどい自分にびっくりだよ!

 

映画はどういう感じだったんだろう。

 

*1:善し悪しについて語っているわけでもなく、かつ、一部の、と随所につけているところを汲んでほしい